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耳鼻臨床 93: 3; 213∼217, 2000 213

中 鼻道 病 変 を有 す る歯 性 上 顎 洞 炎

藤木 暢也 ・塩見 洋作*・森田 武志 ・倉田 響介

Management of Odontogenic Maxillary Sinusitis with Nasal Polyp

Nobuya Fujiki, Takeshi Morita and Kyosuke Kurata


(Kyoto University)
Yosaku Shiomi
(Matsue Municipal Hospital)

In previous reports, Caldwell-Luc surgery was performed in cases of odontogenic maxillary


sinusitis that had not responded to dental and medical treatments. We reported three patients with
odontogenic maxillary sinusitis and nasal polyps treated with endonasal polypotomy.
We encountered three patients with odontogenic maxillary sinusitis and nasal polyps in our out
patient clinic. Although these patients had undergone dental treatment, sinusitis had not improved.
We administered 150 mg/day loxithromycin for a few months but nasal polyps did not decrease.
Therefore, we performed endoscopic endonasal polypotomies. Several months later, the low-den-
sity shadow in the maxillary sinus had vanished on CT scanning and maxillary sinusitis had im-
proved in all patients. This fact indicates that obstruction of the ostiomeatal complex might prolong
some cases of odontogenic maxillary sinusitis.

Key words: odontogenic sinusitis, nasal polyp, endonasal polypotomy, ostiomeatal complex

は じめ に 症 例
歯 性 上 顎 洞 炎 は, 抜 歯 等 の歯 科 的 処 置 に加 えて, 保 存 症 例1: 66歳, 男 性.
的 治 療 を 行 うこ とに よ り軽 快 す る こ とが 多 い と され るが, 主 訴: 膿 性 鼻 汁.
これ に 抵 抗 す る症 例 で は, 従 来 コ ール ドウ ェルーリュ ッ 現 病 歴: 平 成3年 頃 よ り臭 鼻 感 が あ り, 近 医 に て副 鼻
ク法 に 基 づ い た上 顎 洞 根 本 手 術 が 行 わ れ て きた. 一 方, 腔 炎 と して加 療 を 受 け た が 軽 快 せ ず, 放 置 して い た. 平
塩 見 ら1)は, 鼻茸 を 有 す る慢 性 副 鼻 腔 炎 に対 して, 鼻 茸 成5年9月20日, 当 科 受 診 した.

切 除 と炭 酸 ガ ス レー ザ ー に よ る中 鼻 道 病 的 粘膜 の蒸 散 を 局 所 所 見: 初 診 時, 鼻 茸 は認 め な か った が, 左 中鼻 道
行 う こ とに よ り, 良好 な治 療 成 績 を得 た こ とを報 告 した. 粘 膜 の腫 脹 に よ る中 鼻道 の 閉塞 を認 め た. ま た, 左 上 の

今 回わ れ わ れ は, 歯 科 的 処 置 に 加 え て マ ク ロ ライ ド系 抗 第2小 臼 歯, 第1大 臼歯 に蠕 歯 を指 摘 され た.
生 物 質 の少 量 長 期 投 与2)∼5)を
行 った に もかか わ らず, 軽 画 像 所 見: X線CT検 査 に て左 上 顎 洞 に限 局 す る軟 組

快 しなか った 鼻 茸 を 有 す る歯 性上 顎 洞 炎 症 例3例 に対 し 織 陰 影 を 認 め た が, 上 顎 洞 の発 育 は 左 右 差 な く良好 で


て, 鼻 茸 切 除 と炭 酸 ガス レーザ ーに よる 中鼻 道 病 的 粘 膜 あ った(図1a).
の蒸 散 を 行 い, 完 治 させ る こ とが で きた の で報 告 す る. 経 過: 歯 科 に て翻 歯 の治 療 を行 った と こ ろ, 左 膿 性 鼻

京都大学 医学部 附属病院耳鼻咽喉科


*松 江市立病 院耳鼻咽喉科
214 藤 木 暢 也, 他3名 耳鼻臨床 93: 3

汁 の増 加 が み られ 鼻茸 が 出現 した. そ のた め, 歯 性 上 顎 が示 唆 され, 歯 性 上 顎 洞 炎 との診 断 で, 平 成6年6, 月30

洞 炎 と診 断 し, ロキ シ ス ロマ イ シ ン(150mg/日)投 与を 日, 当科 紹 介 され た.
7ヵ 月 間 行 った が, 鼻 茸 が縮 小 しな いた め, 平 成6年6 局所 所 見: 右 中鼻 道 に鼻 茸 を 認 め た が, 鼻 中 隔湾 曲,
月22日 に
こ鼻 茸 切 除, 炭 酸 ガ ス レーザ ーに よ る中 鼻 道病 的 鼻 甲 介腫 脹, 鉤 状 突 起 あ るい は 飾 骨 胞 の 突 出 に よる 中鼻
粘 膜 蒸 散 を行 った. 術 中, 上 顎 洞 自然 孔 よ り排膿 が認 め 道 の狭 小 化 等, 鼻 腔 形 態 に
ご他 の 異 常 は認 め なか った.
られ た. 術 後, 鼻 汁, 悪 臭 は 改 善 し, そ の後, 鼻 茸 の再 画 像 所 見: 単 純X線CTに こて右 上 顎 洞 に
こ軟 組 織 陰 影 を
発 は な く, 平 成7年2月27日 の 単純X線CTで は, 左 上 認 め た が, 上 顎 洞 の 発 育 は 良好 で左 右 差 は認 め な か った
顎 洞 の軟 組 織 陰 影 は 完 全 に 消 失 した(図1b). 術 後 の鼻 (図2a).
内所 見 で は, 鼻 茸 の再 発 は な く(図1c), 内視 鏡 上, 上 経 過: 平成6年7月13日, 右 鼻 茸 切 除, 炭 酸 ガ ス レー
顎 洞 粘膜 の 腫 脹 も改善 した(図1d). ザ ーに よ る中鼻 道 病 的 粘 膜 蒸 散 を行 った. 術 中, 上 顎 洞

症 例2: 46歳, 男 性. 自然 孔 の 開存 を確 認 した. 術 後, 症 状 軽 快 し, 平 成6年

主 訴: 右 鼻 閉. 9月7日 の単 純X線CTで は, 右 上顎 洞 の 軟組 織 陰 影 は

現 病歴: 平成5年12月 末 よ り右 鼻 閉 あ り. 後 鼻 漏, 喀 消失 した(図2b).

疲 あ り. 近 医 受診 し, 右 一 側 性 上 顎 洞 炎, 右 上 第l大 臼 症 例3: 48歳, 男 性.

歯 の鵬 歯 を指 摘 され た. 歯 科 に
こて 鵜 歯 の 抜歯 を 受 け た後, 主 訴: 膿 性 鼻 汁.
ロ キ シ ス ロマ イ シ ン(150mg/日)の 少量 投 与 を6ヵ 月 行 現 病 歴: 平 成6年11月29日, 歯 科 に て歯 槽 膿 漏 の た め
う も軽 快 せ ず. 単 純X線CT上, 上顎 洞 内 に歯 根 の突 出 右 上 第1大 臼 歯 の 抜 歯 を 受 け た が, 以後, 含 漱 時 に右 鼻

図1 a. 初診 時 の単 純X線CT軸 位 断 像. 左 上 顎 洞 に 充 満す る軟 組 織 陰 影 を認 め る.
b. 術 後8カ, 月の 単純X線CT軸 位 断 像. 左 上 顎 洞 の軟 組 織 陰 影 は 完 全 に 消失 し
た.
c. 術 後8ヵ 月 の 左鼻 内所 見. 鼻 茸 の再 発 は み られ ず, 中 鼻 道 は 開存 して い る.
(*: 中鼻 甲 介. ★: 下 鼻 甲介)
d. 術後8ヵ 月 の左 上 顎 洞 内所 見. 上 顎 洞 粘 膜 の 腫 脹 ぱ み られ な い.
耳鼻臨床 93: 3 歯 性 上 顎 洞 炎 と鼻 茸 215

図2 a, 初診時の単純X線CT軸 位断像. 右上顎洞に充満する軟組織陰影 を認 める.


b. 術後2ヵ 月の単純X線CT軸 位断像. 右上顎洞 の軟組織 陰影 は完全 に消失 した.

腔 よ り膿 性 鼻 汁 あ り. 平 成6年12月6日, 近医耳鼻科に
こ な い よ うに
こし, そ の の ち レー ザ ーを 用 い て中 鼻 道 の 鼻 茸
て 右上 顎洞 炎 と診 断 さ れ, 加 療 を 受 け た が 軽 快 しな い た 基部 周 囲 の病 的粘 膜 を蒸 散 して 手 術 を 終 了 す る もの で,
め, 平成7年2月22日, 当科 に紹 介 来 院 した. 外 来 手 術 で行 う もの で あ る1). よっ て, 鉤 状 突 起 の除 去

局 所 所 見: 右 中 鼻 道 に
こ鼻 茸 を認 め るが(図3a), 口腔 は行 わ ず, 上 顎 洞 自然 孔 に つ い て は 全例 に お い て確 認 で
上 顎痩 孔 は認 め なか った. き る もの で は な いた め, 特 に 処 置 は 行 わ な い. しか し,

画像 診 断: X線 パ ノラ マ撮 影 に て 第1大 臼歯 抜歯 部 に 今 回 の症 例 の よ うに, 中 鼻 道 に 鼻茸 を認 め る歯 性 上 顎 洞
一 致 して 右 上 顎 洞 底 の 骨 欠 損 を 認 め(図4), 単 純X線 炎 に お い て も, 鼻 茸 を 切 除 し中 鼻道 の病 的粘 膜 の処 理 を
CTに て 右 上 顎 洞 に充 満 す る軟 組 織 陰 影 を認 め た(図3 行 っ てそ の閉 塞 を 除 去 し, 換 気 を 改善 させ た の ち マ ク ロ
c). ラ イ ド系 抗 生 物 質 を 併用 す る こ とに よ って, 通 常 の慢 性

経 過: 平 成7年3月22日, 鼻 茸 切 除 と炭 酸 ガ ス レー 副 鼻 腔 炎 と同 様 に軽 快 す る可 能 性 が あ る こ とが 示 され た.
ザ ーに よ る中 鼻 道 の 病 的 粘膜 蒸 散 を行 った. 術 後, 膿 性 近 年Kennedyら6)の 報 告 の ご と く, 副 鼻 腔 炎 の発 症,

鼻 汁 は 消 失 し, 鼻 内 所 見 で は 中鼻 道 に 開存 を認 め る もの 遷 延 の原 因 と して, ostiomeata1 complexす なわ ち中鼻


の(図3b), 単 純X線 撮 影 に て 上 顎 洞 陰 影 改 善 しな い た 道 か ら 田骨漏 斗 に かけ て の粘 膜 の炎 症 とそ の 閉 塞 が 重 要
め, 上 顎洞 洗 浄 を追 加 した. そ の後, 単 純X線CTで も 視 され て い るが, 今 回 の症 例 に お い て, 歯 科 治療 等 の 治
右 上顎 洞 の軟 組 織 陰 影 は 消失 した(図3d). 療に
こ抵 抗 して い た上 顎 洞 炎 が, 鼻 茸 切 除 等 の 処 置 に よ り
治癒 した こ とは, 歯 性 上 顎 洞 炎 にお い て も, 中 鼻 道病 変
考 察 が そ の治 癒 遷 延 に影 響 して い る可 能 性 が あ る こ とを示 す

歯 性 上 顎 洞 炎 の治 療 法 は, まず 抜 歯 等 の 歯 科 的 処 置 に もの と思わ れ る. これ は 歯 性 上 顎 洞 炎 に
こお い て も, 必 ず

加 え て抗 生 剤 投 与 を 行 うこ と に
こよ り, 比 較 的 予 後 良好 と し も コ ール ドウ ェルーリュ ック法 に よる上 顎 洞 根 本 手 術

され て い る が, これ らの治 療 で治 癒 しな い 歯 性 上 顎 洞 炎 が必 須 で は な い こ とを 示 唆 す る もの と考 え られ た.

に 対 して は, 上 顎 骨 の 骨 病 変 の 処 理 を 含 め た コ ー ル ド 今 回 の症 例 は い ず れ も, 鼻 中 隔湾 曲, 鼻 甲 介腫 脹, 鉤
ウ ェルーリュ ッ ク法 に よる 上 顎 洞 根 本 手 術 が 行 わ れ て き 状 突 起 あ る い は舗 骨 胞 の突 出 に よ る中鼻 道 に狭 小 化 は認
た. しか し, これ に は 術 後 の 頬 部 ・歯牙 知 覚 障害 や術 後 め られ ず, 鼻 腔 形 態 の 異 常 か ら く るostiomeatal com-

性 嚢 胞 の可 能 性 な ど種 々の 問 題 が あ る. 今 回 わ れ わ れ の p1exの 換 気 障 害 か ら 出現 した 鼻 茸 とは 考 え に
こくい. ま
用 いた 術 式 は, まず 鼻 茸 切 除 を 行 う際 に, 中 鼻 甲 介, 中 た, CT上 の 上 顎 洞 の発 育 の 良好 さ と左右 差 の な い こ と

鼻 道 の 病 的 粘膜 の 鉗 除 は 最 小 限 に と どめ, 骨 面 の露 出が か ら も, 若年 期か ら存 在 した一 側 性 上 顎 洞 炎 か ら くる鼻


216 藤 木 暢 也, 他3名 耳 鼻 臨床93: 3

図3 a. 初 診 時 の 右 鼻 内 所 見. 中鼻 道 に鼻 茸 を認 め る(←)-*: 中 鼻 甲 介.
b. 術 後6ヵ 月 の右 鼻 内所 見. 中鼻 道 は 開 存 し, 鼻 茸 の 再 発 は み られ な い.
(*: 中鼻 甲 介. ★: 下 鼻 甲介)
c. 初 診 時 の単 純X線CT軸 位 断 像. 右 上 顎洞 に 充満 す る軟 組 織 陰 影 を認 め る.
d. 術 後1年 の単 純X線CT軸 位 断 像. 右 上顎 洞 の軟 組 織 陰 影 は完 全 に消 失 した-

ま と め

歯 科 的処 置 と保 存 的 治 療 で改 善 しな い 歯 性 上顎 洞 炎 に
対 して, 鼻 茸 切 除 と炭 酸 ガス レーザ ーに よ る中鼻 道 粘 膜
の蒸 散 を行 うこ とに よ り治 癒 させ る こ とが で きた症 例 を

経 験 した. 今 回 の症 例 の ご と く, 遷 延 す る歯 性上 顎 洞 炎
の場 合, 中 鼻 道 病 変 が そ の 治癒 遷延 の原 因 とな って い る

症 例 が 存 在 す る可 能 性 が あ る と思 わ れ た.

また, 今 回 用 い た 手 術 法 は, 日帰 り手 術 が可 能 で あ る
とい う点 か ら も, 中 鼻道 病 変 を原 因 とす る疾 患 の初 期 治

療 と して, 今 後, 積極 的 に 行 ってみ るべ き方 法 で あ る と
図4 X線 パ ノ ラ マ撮 影 像 で, 右 上 第1大 臼歯 抜 歯 部 に一 致 し 考 え られ た.
て, 右 上 顎 洞 底 の 骨 欠 損 を認 め た.

本論文 の要 旨は, 第34回 日本鼻科学会(平成7年10月, 札幌


市)において 口演 した
茸 と も考 え に くい と思わ れ る. 歯 性 上 顎 洞 炎 か ら炎 症 が
眼 窩 に ま で波 及 した と の報 告 や7)8),歯 性 上 顎 洞:炎 に お
い て も16. 3%に 鼻 茸 を 合 併 した との報 告 もあ り9), 今 回 参考 文献

の 症 例 に お い て も, 歯 性 上 顎 洞 炎 か ら中鼻 道 に
こ炎 症 が お 1) 塩 見洋 作, 倉 田 響 介, 西 田吉 直, 他: 副鼻 腔 炎 の レー ザ ー,
マ ク ロ ライ ド併 用 療 法. 耳 鼻 臨 床87: 1671∼1676, 1994.
よん で鼻 茸 を生 じ, 治 療 に抵 抗 した も の と考 え られ た.
耳 鼻 臨床 93: 3 歯 性 上 顎洞 炎 と鼻 茸 217

2) 菊池 茂, 洲 崎春 海, 青 木彰 彦, 他: 副鼻 腔 炎 とエ リス ロ odontogenic origin; case report and review of the litera-


マ イ シ ン少量 長 期 投 与. 耳 鼻 臨 床84: 41∼47, 1991. ture. Int J Oral Maxillofac Surg 20: 268-270, 1991.
3) 高北 晋 一, 北 村 博 之, 大 八 木 章 博, 他: 慢 性 副 鼻 腔 炎 と少 8) Henry CH, Hughes CV and Lamed DC: Odontogenic in-
量 エ リス ロマ イ シ ン療 法. 耳 鼻 臨 床84: 489∼498, 1991. fection of the orbit; report of a case. J Oral Maxillofac
4) 藤 森 俊 也, 松 岡 出, 中村 隆, 他: 慢 性 副鼻 腔 炎 に対 す Surg 50: 172-178, 1992.
る ル リ ッ ドの効 果. 耳 鼻 臨 床 86: 761∼766, 1993. 9) 金子 功, 原 田宏 一, 石 井 豊 太, 他: 歯 性 上 顎 洞 炎 症 例 の
5) 羽 柴 基 之, 宮 本 直哉, 木 村 利 男, 他: 慢 性 副 鼻 腔 炎 に対 す 臨 床 的 検 討 -臨 床 的 特 徴 お よび 上 顎 洞 計 測 に よ る検 討-.
る エ リス ロマ イ シ ン誘 導 体(ク ラ リス ロマ イ シ ン)の効 果. 日耳 鼻 93: 1034∼1040, 1990.
日鼻 誌 31: 269∼280, 1993.
6) Kennedy DW, Gwaltnay JM, Jones JG, et al: Medical 原 稿 受付: 平 成11年8月12日
management of sinusitis; educational goals and manage- 原 稿採 択: 平 成11年10月13日
別刷 請 求先: 藤 木 暢 也
ment guidelines. Ann Otol Rhinol Laryngol Suppl 〒606-8083京 都 市 左 京 区聖 護 院 川 原 町54
(Stockh) 167: 22-30, 1995. 京 都 大学 医学 部 附 属 病 院 耳 鼻 咽 喉 科
7) Allan BP, Egbert MA and Myall RW : Orbital abscess of