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第3回聴覚障害医療研究集会 @大津市旧大津公会堂 2017年2月11日

米国ロチェスターにおける
ろう者を対象にした
文化言語モデルによる
保健医療の取り組み

皆川愛(聖路加国際大学 大学院 博士前期)

高山亨太(ギャローデット大学)
1
発表の流れ

背景 目的 方法 結果 考察

2
文化言語モデルとは
• Ladd(2003)によって提唱された
「ろう者を独自の文化と言語を持つ
文化言語的マイノリティとみなす」

• 1960年代から、欧米を中心に、
手話言語の文法性、音韻構造(Stokoe, 1960)や
ろう文化の秩序性(Padden & Humpries, 1996)

ろう者学を基盤にした研究の発展が背景にある

• 国内でも木村・市田(1996)によってろう文化
宣言が発表された

背景 目的 方法 結果 考察 3
なぜ文化言語モデルなのか
• 障害学の社会モデルの限界
– 音声言語などの文字化や要約筆記などの合理的配慮は、手話を
第一言語とするろう者に対しての適用は限界がある
(Ladd, 2003; 田門, 2012)

• 手話やろう文化の視点に基づいた生活の維持の重視
− 手話通訳を設置することで受療が促進される(北原ら, 1997)
− 手話で予防医療を提供することで、継続的なアクセスが可能に
なる(McKee, 2011)
− 約95%のろう者が、医療者と直接手話で、あるいは、手話通訳
を介してコミュニケーションをとることを希望していた
(Middleton, 2010)

背景 目的 方法 結果 考察 4
医療におけるろう者への文化的感性理解の重要性
(Fileccia, 2011)

• 医療者は、聴者社会とは違った文化と言語を持つ、文
化言語的マイノリティ集団として、ろう者を理解し、
支援する必要があると述べている。

− 筆談や口話は本当の意味でろう者を理解する、
コミュニケーションの助けにはならない

– ろう者の価値観や視点が共有されないと、
異文化間コンフリクトを引き起こし、
ストレスやノンコンプライアンスを生む

背景 目的 方法 結果 考察 5
ロチェスターろうコミュニティの特徴
• ロチェスターろう学校(Rochester School for the Deaf: RSD)

• ロチェスター工科大学(Rochester Institute of Technology: RIT)に設置さ


れた国立ろう工科大学(National Technical Institute for the Deaf: NTID)に
は手話通訳学部が設置されている

• 地域のろう・難聴者を対象に精神保健サービスを提供している
ろうウェルネスセンター(Deaf Wellness Center: DWC)

• ろう・難聴者を対象に健康に関する研究や介入を行う全米ろう者ヘルスリ
サーチセンター(National Center for Deaf Health Research: NCDHR)

• ロチェスター大学付属病院(University of Rochester Medical Center)に、


ろうの看護師や医師が手話通訳を活用しながら就労、実習している

背景 目的 方法 結果 考察 6
目的

インタビューを通して、ロチェスターにおける
ろう者を対象にした保健医療の取り組みの実態を明らかに
し、
ろう者へ保健医療を提供するにあたって医療者に必要な能
力(姿勢、視点、スキル)を考察する

背景 目的 方法 結果 考察 7
方法
• ロチェスターでろう・難聴者に関わる保健医療サービス
の提供や専門職養成に関わる専門職(以下、プロフェッ
ショナル)を対象に、半構造型インタビューを実施した

• インタビューは、アメリカ手話(日本手話ーアメリカ手
話通訳を介した)によって行われ、対象者の許可を得て、
ビデオ録画を行った

• 2016年3月12日から16日までの間で実施した

背景 目的 方法 結果 考察 8
Deaf Wellness Center とは
(ろうウェルネスセンター)

• 1999年に設立

• ろう者の生活の質を高めるために言語的にアクセス可能で、
文化的に沿った精神保健医療を提供する
(従来の聴者向け精神保健医療の欠陥に対処する)

• 常勤職員:心理療法士2名、ソーシャルワーカー1名、
カウンセラー1名(ろう者2名、聴者2名)

背景 目的 方法 結果① 考察 9
• スタッフ全員
手話が流暢
• ろう文化にも精通
している

Dr. Lori DeWindt Dr. Robert Pollard


(心理療法士) (心理療法士・教授)
Mecekan
(心理療法士の
実習生)

背景 目的 方法 結果① 考察 10
DWCの3本柱

実践
教育 研究
ろう・難聴者に対する
• ろう・難聴者に対 • CBT療法
• 実践の有効性を実
応できる専門職の • DBT療法

養成 • 心理テスト
• 他機関他専門職と
• 生活自立訓練
の研究協力
• ろう・難聴専門職 (SST)
• コンサルテーショ
の学びや就労に対 • うつ病や女性の性

するアドボカシー に関する啓発ビデ
オ作成

背景 目的 方法 結果① 考察 11
DWCの実践活動
• 言語ニーズに応じてグループを分けて
いる(バイリンガル、英語中心、アメ
実践 リカ手話中心、知的障害との重複な
ど)
ろう・難聴者に対する
• CBT療法 • 問題は小さいうちにアプローチする
• DBT療法
• 心理テスト • DWCの存在を知らせる啓発活動を行う
• 生活自立訓練
(SST) • 地域のサービスへのアクセス支援も行
• うつ病や女性の性に っている
関する啓発ビデオ
• 守秘義務を徹底する

背景 目的 方法 結果① 考察 12
うつ病と
自殺の
啓発ビデオ

https://www.youtube.com/watch?v=byBLdEDMPkA

女性の性
(子宮がんや乳がん)
に関する
啓発ビデオ

背景 目的 方法 結果① 考察 13
DWCの教育活動

• ろう・難聴者に対応するにあたって
必要なスキルを実習を通して磨く
教育
• ろう・難聴者の実習を積極的に受け
• ろう・難聴者に対応で
きる専門職の養成
入れている

• ろう・難聴専門職の学 • ろう・難聴専門職を志す学生の学び
びや就労に対するアド や就労の権利獲得のための活動を行
ボカシー う

背景 目的 方法 結果① 考察 14
DWCの研究活動

• ろう・難聴者へのサービス実践を言
語化して発信する
研究 (どういう方法が望ましいのか)

• 実践の有効性を実証 • ろう者には手話で調査を行う
• 他機関他専門職との研
究協力
• 研究助成は、マイノリティ集団に対
• コンサルテーション
する支援として申請を行っている

背景 目的 方法 結果① 考察 15
National Center for
Deaf Health Research とは
(全米ろう者ヘルスリサーチセンター)

• 2002年に設立

• 全米疾病予防管理センター(Center on Disease Control:


CDC)の委託を受けて、ろう・難聴者の健康問題に関する
研究調査を実施している

• CBPR(Community Based Participatory Research)の考


えに則っている

背景 目的 方法 結果② 考察 16
Dr. Steven
Jelly Erika Sutter Kelly Matthews
Barnett
(BA) (MPH) (MSW)
(M.D. & PhD)

当事者の強みを生か
して、ろう者を積極
的に雇用している

背景 目的 方法 結果② 考察 17
NCDHRが実践している
Community Based Participatory Researchとは
• ろうコミュニティに基礎を置く参加型研究

• ろうコミュニティのメンバーと、聴コミュニティからやっ
てきた専門職が協働して研究を行う

• ろうコミュニティメンバーの意見を何よりも重視する
→自分のことは自分が一番よく知っている

• ろうコミュニティメンバーが自分の健康課題を認識し、対
処方法を考え、実践するプログラムが含まれる
→当事者の意識化と当事者主体の取り組みによって
解決を図る
背景 目的 方法 結果② 考察 18
調査の
リクルート
啓発ビデオ

https://www.youtube.com/watch?v=3Ni3QPj04bE&t=29s

アンケート調査に
手話で
回答できる

背景 目的 方法 結果② 考察 19
CBPRの一例
Deaf Weight Wise(2009-2014)
• 2008年に300名のろう者に健康実態を面接、オンラインで調
査を行った

• 聴者と比較して
うつ病、肥満、パートナー関係が大きな課題として挙上した

• 肥満の介入を行うプログラムのRCT研究

• 41-70歳のろう者を対象に、当事者主体で、
食事の留意や運動の仕方などの指導プログラムを行った

背景 目的 方法 結果② 考察 20
CBPRの一例
Deaf Strong Hospital
• ろう者が医療者に扮した仮の病院に、
聴者の医・薬学生が模擬診察を体験するワークショップ

• 異文化の患者にどう対応するかを考える動機付けと知識の
向上につながっていた(Mathew et al,2011; Thew et
al,2012)

背景 目的 方法 結果② 考察 21
The Master of Science degree program
in Health Care Interpretation(MSHCI) とは
National Technical Institute for the Deaf

• 2016年度にNTIDの手話通訳学部に医療通訳学の修士課程を
設置

• 現任者スキルアップコース(約9か月)もある

• CATIE Centerのプログラムを参考に作成を行っている

背景 目的 方法 結果③ 考察 22
Dr. Robyn K.
Kathy Miraglia Dr. Kim Kurz Dean
(プログラムデ (手話通訳 (教授)
ィレクター) 学部長)

背景 目的 方法 結果③ 考察 23
なぜ修士課程なのか
• 医療現場での手話通訳のフィールドを有する人たちが
課題や研究疑問を持ち寄って議論したり、より良い実
践を見出すことが基本理念

• 以下の三点が目的
1. 後進育成を担うためのリーダーシップを備えた指導
者の養成
2. 医療手話通訳実践のスキルアップ
3. 研究分析の視点と技法を持つ手話通訳者の養成

背景 目的 方法 結果③ 考察 24
ろうコミュニティと保健医療機関との協働
[ろう者の主体性を尊重する]
• ろう者が自分の意思で、研究への参加や保健医療へのアク
セスができるように、啓発を重視していた
→ろう者の主体的な参加を促す

• ろう者の言語や文化ニーズについて、ろう者から聞き取り、
文化言語モデルの視点から保健医療の提供を行っていた
→ろう者のことはろう者が一番知っている

• 当事者専門職の意義と必要性を強調し、ろう者の雇用や養
成を推進していた
→当事者性を活用する

背景 目的 方法 結果 考察 25
文化言語モデルの視点
[ろう者の言葉とやり方で実践する]
• DWCやNCDHRは、聴者向けの保健医療や健康に関する研究に
おけるろう者の視点の不足に対処する考えのもとに設立された
→文化的資源を開発する

• プロフェッショナルは言語アクセス(主に手話によるアクセ
ス)を重視し、ろうコミュニティの特徴を捉えることやろう者
のやり方を尊重していた

• 「聞こえない」というだけではろう者の理解は不可能である
加齢による失聴者とろう者では言語も文化も異なる
→文化言語モデルは重要である

背景 目的 方法 結果 考察 26
引用文献①
• CATIE Center. (2008). Medical interpreter: ASL-English domains and
competencies. http://www.interpretereducation.org/wp-
content/uploads/2015/02/DomainsCompetencies10-09-08.pdf [2017/01/30]
• Fileccia, J. (2011). Sensitive care for the Deaf: A cultural challenge. Creative
Nursing, 17(4), 174-9.
• 木村晴美,市田泰弘(1996). ろう文化宣言. 現代思想編集部編. ろう文化. 東
京: 青土社 , 8-17.
• 北原照代・垰田和史・渡部眞也・佐藤修二・西山勝夫(1997). 聴覚障害者に
受療抑制はあるかー手話通訳者を配置した病院の来院状況からー. 社会医学研
究, 15 ,103-107.
• Ladd, P. (2003) Understanding Deaf Culture: In Search of Deafhood.
Clevedon: Multilingual Matters.
• Mathews, J. L., Parkhill, A.L., Schlehofer. D. A., Starr. M. J., and Barnett, S.
(2011). Role-Reversal Exercise with Deaf Strong Hospitalto teach
communication competency and cultural awareness. American Journal of
Pharmaceutical Education, 75(3), 53.
• McKee, M. M., Barnett, S. L., & Block, R.C. (2011). Impact of Communication
on Preventive Services Among Deaf American Sign Language Users.
American Journal of Preventive Medicine, 41(1), 75-9.
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引用文献②
• Middleton, A., Turner, G. H., Bitner-Glindzixz, M., Lewis, P., Richards, M.,
Clarke, A., and Stephens, D.(2010). Preferences for communication in
clinic from deaf people: a cross-sectional study. Journal of Evaluation
Clinical Practice, 16(4), 811-7.
• Padden, C., and Humphries, T. (1988). Deaf in America: voice from a
culture. San Diego: Harvard university Press.
• Stokoe, W.C., et.al. (1960). Sign language structure: An outline of the visual
communication system of the American Deaf. Washington, D.C.: University
of Buffalo.
• Thew D, Smith S, Chang C, Starr M. (2012). The Deaf Strong Hospital
Program: A Model of Diversity and Inclusion Training for First-Year Medical
Students. Academic of Mediceine, 87(11), 1496-500.
• 田門浩(2012). 手話の復権ー手話言語法運動の背景と法的根拠を考える
ー. 手話学研究, 21, 81-96.

28
本研究は、
2015年度聖路加国際大学国際奨学金の
助成を受けて実施しました

ご清聴ありがとう
ございました
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